運動療法
(1) なぜ運動がよいのか
食後に運動をすると、筋肉でブドウ糖や脂肪の利用が増加するため、食後の血糖値上昇が改善され、糖尿病がよくなります。また、運動を続けることによってインスリンの効きがよくなって血糖管理・血糖マネジメントがよくなります。さらに、中性脂肪は低下し、HDL(善玉)コレステロールは増加し、血圧の高い人では血圧も下がるなどの効果もあります。
(2) 運動療法の実際
(A)どんな運動をおこなうのか
散歩・ジョギング・ラジオ体操・自転車エルゴメーター・水泳などゆっくりと十分に息を吸い込みながら全身の筋肉を使う運動(有酸素運動)は適しています。さらに、週に2~3回のレジスタンス運動を同時におこなうことが勧められています。レジスタンス運動とは、おもりや負荷に対しておこなう運動で、無酸素運動に属しますが、筋肉量を増加し筋力を増強する効果が期待できます。日常の座位時間が長くならないようにして、軽い運動を合間におこなうことも勧められます。
(B) 運動療法の注意点
運動療法をおこなううえで注意する重要なことは、低血糖です。その他の注意としては、最初は散歩など軽い運動を短時間おこなうことから始め、次第に時間を長くして、強度もやや強くします。さらに運動中のけがや事故を防ぐため、運動前後にはストレッチング、ラジオ体操などの準備運動をおこないます。運動に適した服装や靴も大切です。膝や足に負担がかからないよう靴底の厚いスポーツシューズを履いて運動をおこないましょう。
(C) 運動を避けるほうがよい場合
以下のような状態では、運動がかえって体によくない場合があります。運動を始める前には、必ず主治医に相談してください。
(1)血糖管理・血糖マネジメントが悪いとき
血糖管理・血糖マネジメントの状態が悪く、空腹時血糖値が250mg/dL以上の場合、または尿のケトン体が陽性の場合には、運動は控えましょう。
(2) 糖尿病の合併症が進行しているとき
(a) 眼の合併症
増殖前網膜症あるいは増殖網膜症のある場合には息をこらえるような運動や体に衝撃があるような運動をおこなってはいけません。中等症以上の非増殖性網膜症でも、血圧が上がるような強い運動は避けましょう。眼科の主治医と相談してから始めてください。
(b )腎臓の合併症
糖尿病性腎症の患者さんや透析患者さんにとっても、運動は身体機能や生活の質を向上させ有効です。しかし、血圧を高度に上げるような激しい運動は避け、有酸素運動を主体とした中等度までの運動がよいでしょう。主治医と相談してから始めてください。
(c) 神経と血管の合併症
起立性低血圧(立ちくらみ)などの自律神経障害が進んでいるとき、あるいは足の末梢神経障害や閉塞性動脈硬化症があるときは、主治医と相談してから運動をおこないましょう。
(3) ほかの病気があるとき
心臓や肺の病気あるいは高血圧など、他の病気がある場合には、運動療法をおこなうにあたっては必ず主治医に相談してください。