バセドウ病

(1) バセドウ病とは 

バセドウ病は自己免疫疾患のひとつであり、細菌やウィルスなどから体を守るための免疫が、自分の臓器・細胞を誤って標的にしてしまうことで起きます。下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(Thyroid Stimulating Hormone:TSH)が甲状腺ホルモン分泌細胞のTSH受容体を刺激することによって甲状腺ホルモンは分泌されています。バセドウ病は、このTSH受容体に対する抗体が体内で作られ、TSH受容体を刺激し続けることで、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌される病気です。TSH受容体に対する自己抗体が作られる原因は分かっていませんが、バセドウ病になりやすい体質を持っている人が、何らかのウイルス感染や強いストレスや妊娠・出産などをきっかけとして起こると考えられています。

(2) 疫学・頻度

「バセドウ病」の患者さんは人口1000人あたり0.2~3.2人と推定されおり、20~30代の若い女性に多い病気です。男女比は1:3~5くらいと報告されています。

(3) 症状

基礎代謝をつかさどる甲状腺ホルモンや、交感神経系のカテコールアミンが過剰になり、動悸、体重減少、手指の震え、暑がり、発汗などの症状が起こります。。疲労感、軟便・下痢、筋力低下、易怒性が生じることもあります。女性では月経が不安定になります。甲状腺は全体的に大きく腫れ、目がとび出たり目が完全に閉じないなどの症状出ることもあります。その他、炭水化物の多い食事をした後や運動の後などに手足が突然動かなくなる発作が起こることがあります(周期性四肢麻痺)。

(4) 治療法

大きく分けて、薬物治療、放射性療法、手術療法の3つの治療法があります。

①薬物療法

薬物療法は、最も簡便で外来で治療が始められるため、多くの方で第1選択となります。欠点として、副作用が生じる可能性があることや、治療効果に個人差が大きく、一旦良くなっても再発率が高いことなどが挙げられます。薬物療法を2年以上継続しても薬を中止できる目途が立たない場合は、他の治療法を検討します。

② 放射線療法

放射線療法(放射性ヨウ素内用療法)は、安全で効果が確実であり、甲状腺の腫れも小さくなります。再発がないように甲状腺機能低下をめざすと甲状腺ホルモン薬の服用が必要になる場合があります。欠点としては、実施できる医療機関が限られていること、バセドウ病眼症状が悪化する場合があり、小児や妊婦・授乳婦では行えないことなどが挙げられます。

③手術療法

甲状腺摘出術は、最も早く確実に治療効果が得られます。再発がないように全摘除を行うと甲状腺ホルモン薬の服用が必要になります。欠点としては、入院が必ず必要であること、手術痕が残ること、手術合併症(反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症など)が生じるリスクがあることなどがあります。

(5) 臨床経過

未治療では、長期的に慢性心房細動やうっ血性心不全、骨粗鬆症などが生じてくるリスクが高く、治療が必要です。治療後の経過は、どの治療法を選択するか、また個人差が大きく一概には言えません。いずれの場合も、甲状腺ホルモンが正常に保たれている状態を目指して治療を行ないます。

(6) 遺伝

バセドウ病になりやすい体質は遺伝しますが、上記のように環境要因が加わって初めて発病します。親、兄弟、祖父母がバセドウ病の方は、一般の人に比べて20~40倍くらいバセドウ病になりやすいと報告されています。

(7) 日常生活での注意点

ストレスによって病気が悪化・再発することがあるので、なるべくストレスを避け、規則正しい生活を送りましょう。甲状腺ホルモンが高い時期に大怪我や手術を受けると甲状腺クリーゼとよばれる危険な状態になることがあるため、手術などはなるべく甲状腺ホルモンが正常になってから受けましょう。またタバコを吸っていると、薬の効きが悪かったり、バセドウ病眼症が悪くなりやすいので、禁煙をお勧めしています。