甲状腺腫瘍

(1) 甲状腺腫瘍とは

甲状腺にできる腫瘍には、良性と悪性があります。良性腫瘍には、濾胞腺腫と、腺腫様甲状腺腫や嚢胞などが含まれます。悪性腫瘍(甲状腺癌)は、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、低分化癌、未分化癌、その他(悪性リンパ腫など)に大別され、乳頭癌と濾胞癌をあわせて甲状腺分化癌とよびます。2004年の統計によると、乳頭癌が全体の92.5%と最も多く、次いで濾胞癌4.8%、髄様癌1.3%、未分化癌1.4%となっています。

甲状腺に腫瘍がみつかった場合、まずは超音波検査を行い、悪性が疑われれば、精密検査として穿刺吸引細胞診を行って良悪性の鑑別を行います。ただし手術を行わないと、良性と悪性の区別がつかない場合もあります。特に、濾胞腺腫と濾胞癌とは穿刺吸引細胞診では区別ができず、常に鑑別が問題となります。

(2) 疫学・頻度

触診による甲状腺腫瘍の発見率は、0.78~1.87%とされ、そのうち悪性の割合は、男性14.4%、女性11.34%と報告されています。超音波検査を用いると、発見率は6.9~31.6%に上がりますが、そのうち悪性の割合は、男性1.9%、女性3.18%と報告されています。

(3) 原因、危険因子

広島・長崎およびチェルノブイリ原発事故の被爆者の研究から、若年での放射線大量被爆が甲状腺癌の危険因子になることが分かっています。一部の甲状腺癌では遺伝子の異常により発生することが知られていますが、多くは原因不明です。

(4) 遺伝

ごく一部の甲状腺癌では、遺伝により発生することが知られています。とくに髄様癌では約40%が遺伝に関係しますが、髄様癌以外で家族性のものは約2-5%程度にとどまります。

(5) 症状

腫瘍が大きくなれば、甲状腺にしこりや甲状腺全体の腫れ、前頸部の違和感などを感じることがあります。良性腫瘍から甲状腺ホルモンが過剰産生される機能性甲状腺結節の場合には、動悸、発汗過多、体重減少などの甲状腺中毒症状が出ることがあります。

(6) 治療法

良性腫瘍であれば、原則的に治療はせず、経過観察とします。ただし、腫瘍が大きく美容上気になる場合や圧迫症状が強い場合、あるいは悪性腫瘍の合併が疑われる場合などは手術を行います。機能性甲状腺結節の場合も手術を検討します。嚢胞や機能性甲状腺結節の場合には、表面から針を刺して腫瘍内にエタノールを注入して腫瘍を壊死させる、PEIT(percutaneous ethanol injection therapy)という治療が行われることがあります。

悪性腫瘍の場合は、手術が基本となります。術後再発や、遠隔転移がある場合は、手術後に放射線ヨウ素内用療法を行います。

(7) 臨床経過

当初は良性の可能性が高いと思われていた腫瘍が、経過とともに悪性であることが分かってくる場合がありますので、良性と診断されても経過観察は必要となります。特に、経過中に大きくなってくる場合は要注意です。悪性の場合は、組織型、進行度によって予後や経過が異なります。