薬物療法

(1) どのようなときに経口薬による治療が必要となるのか

食事療法と運動療法だけで2~3ヵ月続けているにもかかわらず良好な血糖管理・血糖マネジメントが得られない場合、経口薬や注射薬による治療が必要となります。

(2) 経口薬の種類

現在、日本では多くのの経口薬が使用できます。一剤だけではなく、これらの組み合わせで、多くの場合、良好な血糖管理・血糖マネジメントが得られます。また、注射薬と併用する場合もあります。

スルホニル尿素(SU)薬

膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出させるように働きます。そのため、インスリンを作る能力が保たれている患者さんに有効です。スルホニル尿素薬の副作用としては、インスリン分泌を増やすので低血糖をきたす危険性や、体重が増えやすくなることがあります。

 速効型インスリン分泌促進薬

スルホニル尿素薬と同じように膵臓のβ細胞を刺激してインスリンを出させるように働きます。スルホニル尿素薬にくらべ、服用後短い時間でインスリンが分泌され、作用時間が短い点が特徴です。この薬は食事の直前に服用します。副作用としては、スルホニル尿素薬と同様に低血糖に注意します。

 α-グルコシダーゼ阻害薬

腸内で食物中の炭水化物をブドウ糖に分解する酵素の働きを抑えます。その結果、腸でのブドウ糖の吸収がゆっくりになって食後の急激な血糖値の上昇が抑えられます。このため、この薬は食直前に服用します。はじめて飲む人はしばしば、おなかの膨らんだ感じ、下痢やおならが多くなるなどの副作用を認めますが、多くの場合は服用を続けているうちに少なくなります。この薬は単独では低血糖を起こすことはまれですが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用している患者さんは低血糖になることがあります。

 ビグアナイド薬

主として肝臓から放出されるブドウ糖の量を少なくして、血糖値が高くなるのを防ぎます。体重が増えにくいという利点があります。この薬は単独では低血糖を起こす危険はほとんどありません。また、乳酸アシドーシスという意識障害を伴う副作用を起こす危険性がまれにあります。服用中に吐き気、下痢、異常なだるさなどに気がついたら、すぐに薬を中止して主治医に連絡してください。腎臓や肝臓の働きが悪い人、心不全の人、アルコールを多く飲む人は乳酸アシドーシスを起こしやすいので注意が必要です。

 チアゾリジン系薬

筋肉や肝臓などのインスリンが働く組織で、インスリンに対する効きをよくすることにより血糖値を下げます。インスリンの分泌量には影響しません。このため、単独で服用している場合には低血糖を起こす危険はほとんどありませんが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用すると低血糖が起こることがあります。主な副作用はむくみ、貧血、息切れで、ときに肝機能障害を起こす場合もあります。

 DPP-4 阻害薬

食事中の栄養素が胃から小腸に到達すると、インクレチンというホルモンが血中に分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進します。この働きをインクレチン作用と呼びます。インクレチンは短時間で血中のDPP-4という酵素によって分解される欠点があります。DPP-4阻害薬はDPP-4の働きを抑え、インクレチンを分解されにくくします。その結果、インクレチン作用が高まって、食後のインスリンの分泌を増やし血糖値を下げます。この薬は単独では低血糖が少ないのですが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用する場合には低血糖に注意が必要です。また、最近では週に1回内服すればよい、作用時間の長い薬も発売されています。

 SGLT-2 阻害薬

腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑えて、尿から糖を出すことで血糖値を下げます。体重の低下作用があり、肥満の人に向いている薬です。この薬は単独での低血糖は少ないといわれていますが、やはりスルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリン注射と併用する場合には低血糖に注意が必要です。

 GLP-1 受容体作動薬・GIP/GLP-1 受容体作動薬

インクレチン作用を示す薬です。DPP-4阻害薬と似た作用を示します。主な副作用としては吐き気、嘔吐、下痢、便秘の胃腸症状です。DPP-4阻害薬とは異なり体重を減量する効果が期待できます。

(3)注射薬による治療はどのようにおこなうのか?

2型糖尿病には、経口薬の治療のほかに注射薬による治療があります。インスリンと、インクレチン作用を強めるGLP-1受容体作動薬があります。

(A) インスリン注射による治療

インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。1型糖尿病の患者さんでは、糖尿病の治療薬は原則的にインスリン注射が中心です。2型糖尿病の患者さんの場合、今まで説明してきた食事療法・運動療法・経口薬で治療しても血糖コントロールが不良で、高血糖が続くときにはインスリン注射を開始します。

インスリンの自己注射は、患者さん自身が自宅でおこなうものですが、皮下注射といって、腹部などの皮下脂肪に注射をするもので、手技もむずかしくありませんし、痛みもほとんどありません。

★どんなときにインスリン注射が必要か

i. 血糖コントロールが不良なとき

食事療法や運動療法が一時的に乱れて経口薬が効かなくなった場合や、当初効いていた経口薬が長期間飲んでいるうちに徐々に効かなくなり、飲む量を増やしても血糖管理・血糖マネジメントが不良のときには食事療法と運動療法を見直したうえでインスリンを使用します。

ii. ケトアシドーシスがあるとき

感染症や強いストレスのあったときには高血糖状態が続くことになり、その結果として意識障害を伴う糖尿病性ケトアシドーシスという重篤な状態になることがあります。糖尿病性ケトアシドーシスになったとき、またはそのような状態であることが予想されるときには、経口薬では治療できないのでインスリンを使用します。

iii. 病気になったときや手術を受けるとき

血糖コントロールがよいときでも、インフルエンザや肺炎などの急性の感染症にかかったり、大きなけがをしたり、開腹手術など大きな手術を受ける場合、副腎皮質ステロイド薬など高血糖をきたす薬を飲まなければならない場合などには、一時的にインスリン注射を必要とすることがあります。

iv. 妊娠しているとき

妊娠を希望している場合や妊娠しているときには、経口薬が胎児に及ぼす影響を考えて、インスリン注射により血糖管理・血糖マネジメントします。妊娠を希望するときは主治医にできるだけ早く相談してください。

v. 腎臓や肝臓の働きが悪いとき

腎臓や肝臓の働きが極端に悪くなったときには、経口薬の作用時間が長くなるなどの影響が出るため、多くの場合インスリン注射に変更します。

(B) GLP-1 受容体作動薬の注射による治療

GLP-1受容体作動薬は膵臓からのインスリン分泌を促進します。他の経口薬やインスリン注射と併用することもあります。食欲を抑える働きがあり、体重を低下させる作用があります。また、最近では週に1回注射すればよい、作用時間の長い薬も発売されています。

この薬は単独での低血糖は少ないといわれていますが、スルホニル尿素薬・速効型インスリン分泌促進薬・インスリンを併用する場合には低血糖が起こることがあり、注意が必要です。また、この注射薬はインスリンの代わりでありませんので、インスリンの分泌が著しく減少している人で、インスリンを中止してGLP-1受容体作動薬に治療を変更すると、ケトアシドーシスなどの重篤な副作用が起こることがあり、注意が必要です。

(C) GIP/GLP-1 受容体作動薬の注射による治療

GLP-1/GIPデュアルアゴニストは、インクレチンホルモンと呼ばれるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(胃腸ペプチド)の両方に作用する薬剤です。これらのホルモンは、膵臓からのインスリンの分泌を促進し、血糖値を調節する役割を果たしています。GLP-1/GIPデュアルアゴニストは、2つのインクレチンホルモンに同時に作用するため、血糖値の制御をより効果的に行うことができ、血糖コントロールの改善や体重減少の助けとなることがあります。